京都府立医科大学

京都府立医科大学 2022年に創立150周年を迎えます。

創⽴150周年記念インタビュー

2021.05.07

「痛みに寄り添う診療を」

疼痛・緩和医療学教室 助教松岡 豊

プロフィール

2004年4月に京都府立医科大学入学、2010年3月に同大学卒業。京都第一赤十字病院にて初期研修終了後、同病院にて麻酔科専攻医となる。2015年4月より京都府立医科大学大学院(麻酔科)、2019年4月より京都府立医科大学麻酔科学教室助教。2019年9月より同大学疼痛・緩和医療学教室助教となり現在に至る。

目次
  1. 自己紹介
  2. 京都府立医科大学での学生時代と初期研修
  3. 患者さんの痛みに寄り添う診療
  4. 仕事と家庭
  5. 新型コロナウイルス感染症の影響
  6. 臨床での工夫
  7. 今後の目標
  8. 京都府立医科大学をよりよくしていくために
  9. 学生へのメッセージ

自己紹介

疼痛・緩和ケア科の松岡豊です。愛知県名古屋市出身で平成22年に本学を卒業し現在医師11年目です。学生時代はバドミントン部に所属し、初期研修は京都第一赤十字病院で行いました。後期研修を麻酔科で行い、6年目で大学院に入学し4年間痛みの研究に従事し博士号を取得しました。2019年4月から麻酔科、同9月から疼痛・緩和ケア科で助教として勤務しています。

京都府立医科大学での学生時代と初期研修

学生時代はどのように過ごしていらっしゃいましたか?

部活はバドミントン部に入り、週3回の練習に加えて自主練習にも楽しく参加していました。アルバイトに精を出すと言ったこともなく、本分の勉強にも励んでいました。大所帯のバドミントン部で人間関係を幅広く築けたことが、今ここで医師として働く上で活きていることもあります。同級生はもちろん、他学年の先生方とも関係が構築できていることで、診療の中で意思疎通がスムーズに運びやすいです。また、学内外で顔見知りの医師が活躍している姿を見ると、自分も頑張ろうと良い刺激になります。そのような意味で学生時代の繋がりは大きいと思います。

当時進路として考えていた特定の診療科はありましたか?

学生の頃はこれといった科は決めず、幅広く学んでいました。救急や外科には漠然とした憧れを抱いていて、初期研修では三次救急を含めた一般救急が経験できる京都第一赤十字病院を選びました。特に救急では研修医も主力となっていたので、積極的な姿勢で関わっていました。集中治療にも興味を持っていたためICUも回るなど、忙しくも大変勉強になる日々でした。
初期研修を終え麻酔科を選んだ理由の一つに、一個の臓器にしぼらず全身管理を行いたいと感じたことがあります。自分の手で手術するわけではありませんが、各臓器を診る点に加え、手術室に入り手術に関わることができる点も魅力的でしたね。ただ、初めから麻酔科に進もうと決めている人は少ないのではないかと思います。自分自身、麻酔科に特定のイメージを持っているわけではありませんでしたが、研修で回ってみて縁の下の力持ち的な役割なのも向いているように思いました。学部生時代、研修医時代、臨床と思い描く医師像も興味の対象もどんどん変わっていきましたが、それも楽しいです。

患者さんの痛みに寄り添う診療

疼痛・緩和医療というのは一般になじみの薄い分野だと思いますが、どのような患者さんが来られるところなのでしょうか。

疼痛・緩和ケア科というのはそもそも、疼痛治療科つまりペインクリニックと、緩和ケア科の二つが合わさったものです。ペインクリニックには慢性疼痛に悩む患者さん、例えば術後の痛みが長く続く方、帯状疱疹や運動器疾患による痛みのある方、心因性や原因不明の痛みを抱える方がいらっしゃいます。緩和ケア科では、癌による疼痛や全身倦怠感を持っている方のケアを行っています。

痛みのコントロールはどういうところが面白い、またやりがいを感じますか?

やはり患者さんの痛みを取ることができることにやりがいを感じます。麻酔科は患者さんから直接感謝される機会が少ないですが、ペインクリニックでは患者さんの「痛みがなくなった」というフィードバックがもらえることがあるので嬉しいですね。どんな疾患で入院していても1番の悩みが痛みであることは想像できますし、毎朝一番に看護師さんが痛みの有無を尋ねることからも、痛みを取ることがどれほど重要か分かると思います。
また、大切なのは、痛みをコントロールする上で患者さんの訴えを聞き出すことですね。まだまだ難しいと感じるところで、工夫のしがいがあります。痛みは値で出るものではなく主観によるもので、患者さんそれぞれ感じ方も違いますし、話をすることで気が楽になったと言ってくださる方もいます。より早く痛みの元にたどり着けるように、話を聞くスキルも高めたいところです。

お仕事をされていて難しい点はありますか。

もちろん、痛みが和らいで感謝されることもあれば、どうしても治療が効かないこともあります。そういう時には患者さんだけではなくこちらも苦しくなります。文献を調べたり他の先生方に相談したりして対策を考えますし、何ができるだろうかと考え込みます。もっと良い結果が得られたのではないかと思うのは悔しいですし、やはり勉強してより良い治療を提供したい。それがモチベーションですね。

大学院で学んだことはどのように診療に生きていますか。

麻酔科では痛みが人の行動に与える影響を見てきて、痛みについて関心を持っていました。子供のときから研究者への憧れを抱いていたこともあり、臨床医療を行いつつ基礎研究をするのは面白く、充実した大学院生活になりましたね。痛みの伝達系のうち末梢神経系でどう伝わるか研究していたのですが、結果も出て、大学院に進んで良かったと思いました。

研究に携わると、リサーチマインドが身に付くのがいいところだと思います。普段の診療から論文を検索して情報を集め、「どの治療法が他の方法に比べてどれくらい有効か」調べる時にもデータの見方が変わりました。今でも、基礎研究を続けたいという気持ちはありますが、臨床との両立は難しいとも感じます。それでも、原理を解明することは非常に面白いと考えています。

診療の様子 感染対策をしながらの気管挿管

仕事と家庭

仕事と家庭はどのように両立されていますか。

麻酔科で勤務していたときにはオンオフがはっきりしており、休日では家族と買い物をしてから当直をする、といったように時間の使い方を工夫していました。疼痛緩和ケア科では日中が忙しいので、平日は夜に家に帰ったら子供が寝ていることもありますし、土日も患者さんのところに会いに行くことがあるので、時間のあるときには進んで家族と話したり遊んだりしています。麻酔科や疼痛緩和の分野では比較的ワークライフバランスが重視できるかと思いますし、情報収集や勉強はできるだけ家でするようにして、子供が寝てから時間を作るように工夫しています。昨日も一日中子供の相手をしていました(笑)。妻に家事の負担を減らせるように、土日は家事も積極的にするよう心がけています。

家族と金閣寺前にて

新型コロナウイルス感染症の影響

新型コロナウイルス感染症の影響を受けている病院診療で、心がけていることはありますか。

患者さんによってはできるだけ病院に来るのを避けて、診察の間隔を空けてほしいだとか、電話で再診をしてほしいという方もいらっしゃいます。また病院内で違う科を動き回りたくないということで、処方だけ主の治療科の先生に出してもらうこともあります。少し残念に思う部分もあるのですが、仕方のないことですね。
電話診療は顔が見えずなかなか難しいところもあります。症状が落ち着いていて処方が変わらないことを前提とした方法ですが、患者さんの声色が少し異なっているように感じたり、こんな症状が出たから処方を変更してほしいと言われたりすると不安がよぎります。薬を飲んでいるのか確かめられないなど、実際に診ていないのに電話越しの情報だけで判断して良いのか正直戸惑いもありますね。

臨床での工夫

現在臨床に取り組まれる中で、患者さんの話を聞くコツがあれば教えてください。

患者さんとお話しする時は、会話が簡潔な方がいいと思う時はありますが、ゆとりのある時はまずは患者さんに自由に話してもらい、患者さんの話を聞く努力をするようにしています。診察のために3時間待ったのにたった3分しか話を聞いてもらえなかったらがっかりしてしまう患者さんもいると思うので、そんな不満の残らないよう心がけています。ただし、その分他の患者さんを待たせてしまうという側面もあるので、これからも話の聞き方は工夫していきたいですね。

今後の目標

今後について、何か目標はありますか。

3、4年後どうなりたいかは常々考えていますが、実際にどうなっているか自分でも分からないところはあります。痛みの研究で後に何か残せたら良いなとは思います。麻酔科は自分次第で基礎と臨床どちらもできる科なので、自分自身どれだけ意欲を持って向き合っていくかが鍵だと感じます。
さらに先、3、40年後となると想像したことがありませんが、退職後は家族と海外旅行生活などしてみたいですね……そのころには海外も宇宙も簡単に行けるようになっているかもしれませんし(笑)。ですが、できる内は仕事をしたいです。頑張れる内は頑張りたい。
患者さんをよくしてあげたいという気持ちが、自分にとって大きなモチベーションです。もっと勉強したいし、いい治療をしてあげたいと考えています。

京都府立医科大学をよりよくしていくために

松岡先生は学生の指導にも携わっておられるということですが、本学の学生や研修医指導について、ご意見をお聞かせください。

学生が真面目になったと思いますね。臨床実習でも学びたいという意思を感じます。しかし、指導者側としてその意欲に応える実習が提供できているのか、と悩む部分もあります。学生はせっかく実習で訓練してOSCEも合格しているので、もっとやらせてあげたい気持ちはあります。予診や採血も学生にもっとやらせてもいいかもしれないですね。もちろん、学生にすべて任せられるかと言えば不安ですが、主体的に参加できるプログラムを準備しきれていない現状は少し残念に思います。実際の診療優先になることは変えようがありませんし、学生さんの勉強に沿った症例が来ると限らない点が難しいですね。しかし、研修医でさえ見学、学生であってもさらにその見学になってしまっているのは医学教育としてもったいないと思います。

学ぶ立場として、学生はどのような工夫ができるでしょうか。

真面目で大人しすぎる人が多いように思います。もっとやりたいこと、学びたいことを主張しても良いんです。教員側としても、自分の専門分野について、学生が興味を持って質問や提案をしてくれると応えたくなります。学生の主体的な学びによって教える側、教えられる側双方にポジティブな影響が生まれると思います。

学生へのメッセージ

学生に向けてメッセージをお願いします。

本学は伝統があり様々な分野で活躍する先生方がいらして、そのような先輩とのつながりが大きいため、人のネットワークを生かして診療がしやすくなることがあるのがいいところです。臨床でも研究でも、自分の目標を達成するのに必要なものが十分そろっている環境でもあります。また以前に比べて、大学外との交流もより一層行われていると感じますが、それでも府立医大にとどまりたい、戻って来たいという人が多い。本学はそれだけ居心地がいいということですね。

学生の皆さんは、学生時代はいろんなことをしたらいいと思います。勉強は医師として一生続けることになるので、クラブ活動や長期休みを利用した海外留学など、学生のうちにいろんな経験をすることいいのではないでしょうか。

松岡先生、本日はお忙しい中インタビューにご協力いただき、ありがとうございました。

取材・文:磯邉綾菜(医6)橋本寛子(医6)

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