京都府立医科大学

京都府立医科大学 2022年に創立150周年を迎えます。

創⽴150周年記念インタビュー

2023.01.16

西表島で見つけた理想の医療

沖縄県立八重山病院附属大原診療所 所長吉見 未祐

プロフィール

2017年3月 京都府立医科大学を卒業し、沖縄県立中部病院で初期研修を開始
2019年4月 沖縄県立中部病院 総合診療科後期研修(島医者養成プログラム)開始
2020年10月 沖縄県立宮古病院総合診療科 赴任
2021年4月 沖縄県立八重山病院附属大原診療所 赴任 所長

目次
  1. 魅力あふれる西表島へ
  2. 西表島での医療
  3. 離島でこそ活きるプライマリケア
  4. 西表島から届けるメッセージ

魅力あふれる西表島へ

本日はよろしくお願いいたします。先生が勤務されている西表島は、どんなところですか?

こちらこそよろしくお願いします。西表島は沖縄県にある離島の一つで、沖縄本島よりも台湾の方が近いような南部に位置します。自然が豊かで、イリオモテヤマネコなどの絶滅危惧種も多く生息しています。昨年世界自然遺産に登録されました。
島は沖縄県内では本島に次いで2番目に広く、人口はおよそ2500人です。島は中央の山によって東西の地区に分かれていて、私は東側の地区にある大原診療所に勤めています。こちらは人口が約1000人で高齢化率(*1)は23%です。
実は、西表島の東側の地区はマラリアが蔓延して人が住めなくなった時期があります。戦後のアメリカ統治下で、薬を散布するなどしてようやく人が住めるようになり、近辺の島々から人を呼んできて開拓したという歴史があります。その開拓1世の世代から4世くらいまでの方々が暮らしています。西表の自然に憧れてカヤックやトレッキングツアーなどのネイチャーガイドを生業にしたい、と都会から移住してくる層もいて、子供も結構多いです。

南の島、豊かな海。2021年には奄美大島などともに世界自然遺産に登録された。

先生はどうして西表島に行こうと思われたのですか?

最初から西表島に行こうと決めていたわけではなかったんです。病院実習で様々な科を回りながら感じたのは、どの科も面白く新鮮だけれども、ここに進もうとピンとくる科はないということでした。病気になってからそれを治す、というのは大事なことではありますが、キリがないと思ったのです。医療のニーズと実情を学びながら、病気になる前の患者さんに関わりたい、と思って調べていたら沖縄県立中部病院へ行きあたりました。5回生の時に見学に行ったのですが、とても印象的でしたね。

どのような点が印象的だったのですか?

5日間、病院を見学させてもらいましたが、最初の4日間は中部病院内の各科を満遍なく見学させてもらいました。そして最終日に、人口300人ほどの小規模離島である津堅島の診療所の外来見学に行きました。
そこでは、診療所の医師が、主訴に関わらず高齢者全員の足の爪を見て、爪白癬と診断した方に抗真菌薬を処方していました。人口の少ない離島では、全員に対してアプローチすることが可能で公衆衛生学的視点を持ちやすい、と教えていただいたことが記憶に残っています。
さらに往診にも同行させていただいて、診療所の医師は、自身も島に住んで患者さん全員に関わっていると知りました。その関わりは決して浅く一時的なものにはなり得ないのだ、と感じたことが非常に印象に残っています。

それで沖縄県立中部病院に就職されたのですね。

実際に行ってみると思い描いていた医療の様子とはかけ離れた実情も目にすることになりました。重度のアルコール依存症に肝性脳症(*2)と敗血症(*3)も併発した方、誤嚥性肺炎を繰り返し何度も入退院を繰り返す認知症の方、生活習慣病をいろいろ抱えているのに医療機関につながっていない方など、医療者として信じられない思いでした。このような患者さんに共通するのは、終末期の方針が全然決まってないし、そのことを相談する相手もいないということです。
高齢者に手厚くいろいろな医療を行うのはもちろんのことです。でも、家族もいない、本人は認知症という方に高度な治療をすることは、これはいったい誰が望んでいる医療なのでしょうか。経済的には明らかにうまく行っていないですし、おそらく患者の満足度も伴っていないし、何より医療者自身が疲弊してきています。医療はこのままで本当に良いのだろうか、という思いを抱えて私は苦しみました。

そんな時、初期研修2年目の秋に地域研修がありました。そこで西表島の西部診療所に行く機会があったのですが、90歳でこんな元気な人見たことない、というくらい高齢者がみんな元気でした。病院に勤務していると、一人の人を継続的に診ることさえ難しいですが、診療所は日頃の生活から診ることができます。島の人々と一緒に生活しているからこそ、受け持つ患者さんの日常生活が見えて、よりその人の生活にあったアドバイスや介入ができます。さらに、あらかじめ終末期について考えておくとか、そもそも病気にならないために、というアプローチができます。これこそ、私が求めている医療の形だと直感しました

そのようなきっかけがあって離島医療に興味を持たれたのですね。

そうですね。もう一つ印象的だったのは、私が西表島に滞在中に行われたお祭りでした。島民の方々の、このお祭りにかける熱量がすごいのです。1ヶ月前からアダン葉(*4)で祭りの時に履く草履を作ったり、獅子舞の被り物の修理をしたり、踊りの練習を毎日重ねたり。このお祭りを見ていると島の人々の本気度が伝わってきました。そんなこともあって、中部病院に残るかどうか悩んでいた私は、後期研修には島医者の養成コースに進むことにしました。
面白いなと思ったことは突き詰めたい。敷かれたレールの上をただ走るのは何か違うと思っていた私は、キャリアとしては珍しい島医者への一歩を歩み始めたのです。

(編者註)
(*1)高齢化率;総人口に占める65歳以上の人口の割合
(*2)肝性脳症;肝臓の機能低下による意識障害。肝硬変が進行した場合や劇症肝炎などの重篤な肝障害によって引き起こされる。
(*3)敗血症;感染症に対する制御不能な生体反応に起因する、生命を脅かすような臓器障害のこと。
(*4)アダン;パイナップルに似た木。熱帯から亜熱帯でよく見かけられる。

西表島での医療

私たちが、離島でどのような診療が行われているのかを知る機会は中々ありません。普段の診療はどのようなものなのでしょうか。

大きくは、一般外来・救急・在宅医療/看取り・地域保健活動の4本柱に分けられると思います。私が地域で一人の医師なので、発生しうる医療行為は全部自分一人で行うことになります。

それはとてつもなく責任重大ですね…。一般外来や救急では、具体的にはどのような疾患を診ることが多いですか?

内科疾患では高齢者の糖尿病や高血圧をはじめとする生活習慣病の管理です。人数的にはこの内科が一番多くて、加えて肩や腰の痛みのような整形外科的な疾患から、泌尿器疾患(過活動膀胱、前立腺肥大など)、怪我・転倒、発疹、動物に噛まれた、などの小外科的なことも診ています。小児科も結構多く、産婦人科もちょこちょこいます。
重症なものとしては、不整脈や脳卒中のほか、子供の広範な火傷、製糖工場での切断肢、水難事故(特にシュノーケリング中の事故)などを経験しました。
救急疾患は、人口が少ないので診療所のセッティングでの経験数も多くないのですが、高次医療機関につなぐまで確実に対応しなければなりません。大病院の救急医の先生は毎日のように行っていることであっても、私にとってはごくたまにしか経験しないことなので、手順などで少しあやふやになってしまう部分もあります。でも失敗は許されない。だから、たとえば気管挿管(*5)やACLS(*6)などは手順を書いたチェックリストを作って、病院の壁に貼っています。

救急と言っても、島に消防署はないとお聞きしました。

そうなんです。そのかわりに、地元の屈強な男性で構成された消防団があります。消防団の方々には、患者さんが怪我したときに診療所に連れてきてもらったり、ヘリ搬送が必要な時に付き添ってもらったり、心臓マッサージが必要な時に手伝ってもらっています。
いざという時の対応ができるように、消防団の方々と一緒に3か月に1度ほど訓練を行っています。消防団の人たちの参加率はとても高くて、皆さん使命感にあふれて真剣に取り組んでくれています。心臓マッサージのほかにも、コロナが重症化した場合や海難事故、熱中症などを想定したシミュレーションを行うことで、より確実に救命できるように努めています
しかし、診療所でできる医療行為には限界があります。例えば画像検査はエコーとレントゲンしかなくて、ヘリ搬送せざるを得ないこともあります。その搬送も、今日中に出したほうがいいのか、明日でもいいのか、考えなければなりません。搬送にはコストがかかり、しかもリスクもある程度あります。状況を天秤にかけて、それに見合った判断をしています。

現在は新型コロナの第7波の真っただ中ですが、西表島でも医療面でのコロナ禍の影響はありますか?(インタビューは2022年7月末に行われました。)

もちろんあります。最近は東部地区だけでコンスタントに一日3人から10人程度(東部地区の人口の約1%)の陽性者が出ています。ですから、時間を決めたうえで、発熱外来も通常診療と並行して行っています。
特に離島は一度ウイルスが持ち込まれてしまうと感染が広がりやすいです。過去には西部地区で、1週間に島民1500人中100人が罹患するという事態も起きました。ですから、何とか持ち込まれたウイルスが広がらないよう最大限の対策をしています。その一つが、陽性者が判明してすぐに濃厚接触者を特定することです。普通は検査をして薬をもらうと診療は終わりですが、島では患者さんから濃厚接触者に直接その旨を伝えてもらう仕組みを作りました。そのうえで、感染を広げないように、陽性者、濃厚接触者に対して隔離期間などを示した図を作って渡しています。
また、ワクチンの接種率も高くなかったので、集団接種を設定したり、ポスターを作って住民の方々へ啓蒙活動も行ったりもしました。離島ということで、自然派(出来るだけ医療を受けない主義)の方々も一定数いらっしゃいます。そのような方にも、怪我などで診療所に来られた時などの機会に情報提供はするようにしています。

離島医療の良い点はどのようなところですか?

社会構造が分かり易い点でしょうか。社会が小さいため、診療体制などでも柔軟に対応できますし、学校や役場とのやりとりなどを通して、地域全体へのアプローチに手が届きやすいです。これを直ぐに大きな社会に適応するのは難しいかもしれませんが、どう適応させていくのかを考えるには良いステップだと思います。イギリスのGP(*7)のような医療の形が実現されているとも言えますね。
また、これは私自身のモチベーションにもなっていることですが、離島診療所が介入することで大病院の負担を減らせる、という思いがあります。難しい検査はできなくても、症状のフォローや投薬など、診療所でできることは診療所で行うようにしています。今の医療制度では、誰でも自由に医療にアクセスできるので、専門医や高次医療機関が疲弊しています。かかりつけ医をかかりつけ医として機能させる、今の自分はその役割を果たしていると思って働いています

西表のお祭り。

反対に、離島医療の難しい点はどのようなところですか?

診療所に医師は私一人しかいませんが、私一人で対応可能なことばかりが起こるとは限りませんよね。一人で対応可能な範囲をはるかに超える事象が起きたときに、自分が潰れないかは少し心配ですね。今は生活習慣を整えたり、週に一回はバドミントンしたりすることで自己管理をしています。でも確固たる自己管理方法はまだ模索中です。
ちなみに島は娯楽が少なく、スポーツをするか、飲み会をするか、その2つに集約されてしまいます。

地域保健活動の一環で、学校医として検診もされているとお聞きしました。

そうです。何故かはわからないのですが、結構心雑音がある子が多いので、スクリーニングのような形でエコーにつなげています。また、親が自然派で診療所に来ない子にもアクセスできるのも良い点です。検診の最後の総括を述べる場で、保護者に子供の目や歯に気を遣ってくださいと伝えています。

(編者註)
(*5)気管挿管;口または鼻から喉頭を経由して気管内チューブを挿入する気道確保方法。確実な気道確保と誤嚥防止のため施行される。
(*6)ACLS;病院等の医療機関等での救命救急における心肺蘇生法。
(*7)GP;イギリスの医療では、公的医療はフリーアクセスではなく、機能分担が徹底されている。プライマリ・ヘルスケア(すべての人にとって健康を基本的な人権として認め、その達成の過程において住民の主体的な参加や自己決定権を保障する理念、ならびにその理念の実現のために地域住民を主体とし、人々の最も重要なニーズに応え、問題を住民自らの力で総合的にかつ平等に解決していく方法論・アプローチ。アルマ・アタ宣言で定義された。)は、市民自ら登録を行った総合診療医(GP)によって提供される。
なお、次章で取り上げられるプライマリケアは、プライマリ・ヘルスケアの一部とされる。患者の心身を総合的に診て、初期段階での健康状態の把握や一時的な救急処置、日常的にみられる病気や軽度の外傷の治療、訪問診療などを行い、特殊な症例については専門医に紹介する役割を担う。

離島でこそ活きるプライマリケア

先生は、プライマリケアの重要性はいつごろ意識されたのでしょうか?

離島に行く前からプライマリケアは大事だと思っていましたが、そもそも日本でプライマリケアが機能する場所は本当にあるのだろうか、とも思っていました。離島で機能しなければどうしようもないですが、西表島に来てみて、きちんと環境があれば機能することが分かりました

都市部と地域とでは、具体的にプライマリケアはどのように違いますか?

地域では、都市部に比べて病院が少なく、病院を選ぶ余地はありません。そしてそこで勤務する医師が様々な疾患を診ます。地域のプライマリケアはよりベーシックであると言えます。医療資源・人的資源ともに都会と比べて十分とはいえませんが、上手くカバーしています。

都市部では、なかなか診療の継続性を保つのが難しいところにどう継続的に関わっていくのかという問題があります。病院が身近ではないとういう心理的距離もあるようです。それに、自分の健康に無頓着すぎる人がいたり、大病院志向の人がいたり、と価値観や家族背景が違うことによる複雑さは地域の比ではありません。
一方で、都市部の病院の先生もプライマリケア医にかかりつけ医として機能して欲しいと思っているようです。ただ現状では、かかりつけ医の技量の差が激しいという声を聞きますね。
都市部と地域の中間くらいの規模で、たとえば50床くらいの病院がそのエリアの中核になっていると、患者さんがその病院から動かず、高次医療機関につながらないということも起こっているようです。

かかりつけ医の技量の差を埋めるにはどうすればよいのでしょうか。

総合診療専門医のような研修を受けてプライマリケア医になる人が増えると改善されるのではないかと思います。ですが、総合診療専門医の歴史はまだ浅く、私が2期生になります。少し長い目線で考えていかなければならない難しい問題ですね。私自身も総合診療を学び続ける姿勢を忘れずに生きたいと思います

キャリアとしてのプライマリケア医や、先生ご自身の今後はどのようにお考えですか?

このような離島医療の現場にも関わりつつ、プライマリ・ヘルスケアシステムの構築にも関われたらいいなと思っています。上流(行政)と下流(現場)、どちらか一方だけでなくそのどちらにも関わっていきたいです。
いま私は医療人類学(*8)という学問に興味を持っています。医療の現場において、医療者が何気なく使っている言葉が一般の人には馴染み無かったり、医療者としてこれは当たり前という常識が実は世間ではそうではなかったりします。医者は病気の成り立ちなどの知識があって、診断して、治療して、という仕組みに当てはめて考え行動しますが、患者は病気の症状があってそこから、という違いもあって面白いです。どのような医学の情報が求められていて、それをどのように一般の人に伝えるかをいつも考えながら診療に当たっています

(編者註)
(*8)医療人類学;病気と健康(保健)に関する、人類に関しての総合的な研究分野。人類にとって医療とは多様な顔をもつ実践の集合体である、という考えを持つ。

西表島から届けるメッセージ

特に地域医療に関わりたいと思っている学生は、どのようなことを身に着けておくべきでしょうか。

一口に医療と言っても、「標準化された医療」と「患者さんそれぞれに対して幅がある、個別性の高い医療」と両方あると思います。
標準的な医療を学ぶことは、あらゆることの基礎となります。そのうえで地域に出て生活を見て、より個別的な医療をするとなったときに、標準治療に何を上乗せしてどうサポートするかが問われてきます。学生の皆さんは、まずは個別的な医療を行う上でのベースになる標準の医療をしっかりと学んでください
実は私は学生の時は地域医療や家庭医療が一番つまらないと思っていました。でも今はそれが一番面白いと思っています。離島でのより個別的な診療は、医療とは何かを考えさせてくれる良い機会です。自分で何が必要かを考えて行動することにこそ意味があります
このような実践ができるようになれば最高ですね。

総合診療を志す人たちに何かメッセージを頂けますか?

総合診療はまだ何もキャリアパスがありません。器用な便利屋、医療の隙間を埋める人、と思われていることも多いです。「結局総合診療医は何ができるのか」「総合診療などを選んで今後どうするの」などと心ないことを言われることもあります。私自身もこのようなことに悩んだこともありました。
しかし、不意に傷つけられたり、やる気を削ぐようなことを言われたりしても、その人が自分の将来の責任をとってくれるわけではないし、その人自身が経験した上で言っていることでもないので、まったく気にしなくていいですよ。
学生は一番柔軟で賢い時期だと思います。学生の時に色々素朴な疑問を持っていたことでも、残念なことに働き始めると忘れてしまうことがあります。学生の時に感じたこと、考えたことはすごく貴重なので、それをいつになっても大事にしてほしいですね。年数を経て何か形になることもありますから
最後に言います。離島医療は面白い!

力強い断言、私の心にも響いてきました。本日は貴重なお話をありがとうございました!

取材・文=岡田優人(医4)

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