訪問看護で一人ひとりに合わせたケアを
本日はよろしくお願いいたします。古和田さんは現在どのようなお仕事をされているのでしょうか。
看護小規模多機能型施設(注1)で働いています。
私の働いている施設では通所と泊まりと介護と訪問看護全てがひとまとめの料金で利用できるサービスになっています。普段は午前は通所で来られる方の看護を、午後から2-3件訪問看護を行い、施設に帰ってきて記録等をして1日の業務が完了する、という流れで働いています。施設に通所されている方は50-60代のパーキンソン病や脳疾患、認知症などの難病の方や高齢者の方が多いです。がんなどの末期の方も数名います。
看護小規模多機能型施設では、患者さんや家族の状況に合わせて調節しながら看護を提供できることが特徴です。例えば、帰宅を希望される患者さんのご自宅の状況がご本人を受け入れられる状態に整うまで施設の宿泊サービスを利用していただき、ご自宅に帰られた後は訪問看護で介入し、ターミナルケアまで行うというようなことができます。患者さん一人一人が望む生活を実現できた時にとてもやりがいを感じます。
(注1)看護小規模多機能型施設
医療依存度の高い人や退院直後で状態が不安定な人、在宅での看取り支援など、住み慣れた自宅での療養を支える介護保険サービス。主治医との連携のもと、医療処置も含めた多様なサービス(訪問看護、訪問介護、通い、泊まり)を24時間365日提供する。
訪問看護では具体的にどのようなことをされているのでしょうか。
現場では、家族がどこまで介護に関われるのかを把握しながら、訪問看護の回数などをケアマネージャー(注2)さんと相談しながら個別の患者さんに合わせて決めていきます。一回の訪問は30分から1時間くらいで、週に2-3回訪問看護をするパターンがほとんどです。持ち回りで24時間のオンコールを担当する日もあります。提供しているケアの内容としては、摘便や浣腸などの排泄ケア、大変な介護を行っている家族のお話を聞くような家族ケアなどを行っています。褥瘡などの傷のケアをしなければならない場面に出会う頻度も高いので、軟膏処置をすることもあります。
(注2)ケアマネージャー
介護を必要とする方が介護保険サービスを受けられるように、ケアプラン(サービス計画書)の作成やサービス事業者との調整を行う、介護保険に関するスペシャリスト。
患者に寄り添う医療に出会った学生時代
保健師の資格を取得されていますが、そこから訪問看護の道を選ばれた経緯はどのようなものだったのでしょうか。
学生時代の実習で訪問看護師と一緒にALS(注3)の方の訪問に行きました。病気のせいで患者さんはどんどん体の機能が落ちていってしまうのですが、今ある機能を最大限に利用して本人がしたいことを最後まで援助するというケアのあり方にとても魅力を感じました。もともと地域で看護をしたいと考えていたので、患者さんの望む生活を実現できる訪問看護は私にとっては最高の組み合わせだと考え、緩和ケアにも興味を持つようになりました。
(注3)筋萎縮性側索硬化症。手足・のど・舌・呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっていく病気。
学生時代はどのように過ごしておられましたか。
私は自分で学費を払わないといけなかったので、大学に行って勉強が終わったら、部活がある日にフットサルをする時間以外は全部バイトをしていました。実習がある時期は、実習に行ってバイトに行って実習記録を書いて、また実習というサイクルで生活していたのでとても大変でした。
京都府立医大での学びで印象に残っているものはありますか?
予防の観点の方が大事だと思ったので学生時代は保健師のコースを取っていました。保健師の勉強をしたことで地域看護に興味を持ったので、保健師のコースで学んだことは、訪問看護師になりたいと思うようになったきっけにもなりました。
今の仕事にも保健師の先生から習ったことがすごく役立っています。例えば、医療制度や利用できるサービスの知識は患者さんやご家族への説明に欠かせないですよね。学生20人に対して先生が5人ほどいてくださるので、よく目が行き届く環境で個別の学生に合わせた進路指導や教育をしてくれたと思います。
学生時代に行っていたフットサル部の大会の写真。
明確になった地域医療への思い
最初の就職先はどのように決められたのでしょうか。
就職活動は合同説明会に行き、3年の末か4年の最初くらいにインターンに行ってその後病院ごとの採用試験を受けるという流れでした。自分が始めたい時期に始められるので、早めに動くのがいいかもしれません。私は合同説明会で気になった施設へインターンシップに行き、理念に共感できた東京の大学病院を選びました。
なぜ大学病院から現在働かれている看護小規模多機能型施設に転職されたのでしょうか。
まずは大学病院で看護技術や知識を学ぼうと考えたのですが、病棟の仕事は地域の人とじっくり関わるような自分の目指す看護師の姿とは違っていました。患者さんは病院に治療を受けに来られるので、入院中はやるべきことが決まっていて、コミュニケーションを双方向でとって方針を一緒に考えていくというよりは業務的なケアになってしまっていると感じたんです。地域で働いていると、患者さんには家族や暮らしの優先順位があり、それに合わせて患者さんと対話をしながら看護ができるのではないか、そういう看護の方が自分には合っているのではないかと考えるようになりました。
転職後の現在の職場で訪問看護師としてどんなことにやりがいを感じますか。
個別の患者さんに合わせて、ご本人が望む生活を実現できた時にはやりがいを感じますね。訪問看護の中でもターミナルケアでは患者さんのご家族に心を開いてもらったり、苦しさを共有してもらうことが大切なので、より密に関わることが求められると思います。
ターミナルケアの現場では、自宅でお看取りをすることが難しい場合も多いのですが、最後にご本人とご家族とが納得して最後を迎えられると、関われてよかったなと思います。病状が急に変わったり、患者さんが苦しんでいる姿を家族が見ないといけなかったりといろいろなハードルはありますが、痛みや息苦しさをうまくコントロールして家族が安心して最後まで一緒に居られるように援助することがポイントになります。患者さんの状態をご家族にきちんと理解していただき、最期に向けて準備をしていくことも大切です。何度も訪問を繰り返す中で、患者さんの病状を説明するタイミングや頻度なども個別に工夫できる点も訪問看護の特徴だと思います。
今後の目標と学生へのメッセージ
古和田さんは今後どんなふうに仕事をしていきたいと考えていますか?
訪問看護を始めてからまだ経験が浅いので、まずは現場経験を積み重ねたいので看護小規模多機能型施設で働き続けたいと思っています。一緒に仕事をしている方はベテランの方ばかりなので、地域で看護師として働きたいという熱意をアピールすることと、わからないことは素直に周りの人に聞いて、毎日勉強して知識と技術を向上することを心がけています。
学生へのメッセージをお願いします。
私は看護師としての最初のキャリアを病棟看護師としてスタートしましたが、自分のやりたいことを考えた結果、地域に出て訪問看護に携わることを選びました。病院で働いた期間が短く看護技術や知識を完璧にできたわけではなかったですが、看護協会が講習や研修を地域でたくさん開催してくれているので、そういう学習の機会を活用するようにしています。病院勤務や地域医療も含めて進路に迷っている人には、卒業後も自ら必要なことを勉強していくやる気さえあればどのようなキャリアを選んでも大丈夫だと伝えたいです。自分のやりたいことができるような働き方を見つけられたらいいですね。
本日はありがとうございました!
取材・文:磯邉綾菜(医6)