京都府立医大の推薦制度
まずは自己紹介をお願いします。
京都府立医科大学附属北部医療センターで消化器外科として勤務している玉井瑞希です。京都府の堀川高校出身で、本学には推薦制度※で入学し、学生時代はバドミントン部に所属していました。初期研修はたすき掛け制度※※を利用し、京都山城総合医療センターと本学附属病院で行いました。京都中部総合医療センターと本学附属病院での勤務を経て、2021年度から北部医療センターに所属しており、現在医師7年目です。
※推薦制度
学校推薦型選抜により入学した学生は京都府が設定する京都府地域医療確保奨学金を受給し、本学卒業後、一定期間京都府が定める地域医療機関において医師の業務に従事することになる。
※※たすき掛け制度
初期研修を行う際、大学病院と研修病院が1年ずつ交互に研修を行う方式をたすき掛け方式という。
なぜ先生は推薦制度を利用し北部地域で働きたいと思われたのでしょうか?
父の実家が奈良県の山奥にあり、中高生の頃から地域の人の役に立つ仕事をしたいと思っていました。高校1年生までは具体的にどんな仕事か決めていたわけではなく、漠然と理系、特に林業系を考えていました。しかし、より直接的に人に関わり、人の役に立ちたいと感じるようになりました。また、学校の成績も良かったため、自分を最大限生かせる道に進みたいと思って医学部を目指すことにしました。
本学の推薦制度は私たちの2つ上の学年から始まり、定員も3人から5人、7人へと発展している時期でした。私自身も初めは推薦制度について知りませんでしたが、仲の良い同級生から推薦制度があることを教えてもらい一緒に受験して合格しました。
推薦制度についてのイメージは、受験生時代、学生時代、現在で変わりましたか?
大きくは変わらないですね。推薦制度では卒業後一定期間、一般的には9年を京都府北部で過ごすことになりますが、その期間を経て一人前になるのだという印象を抱いています。医師のキャリアが9年でどう進むかはわかりませんし、受験生や学生であればどの診療科を選ぶのかも決まっていないと思いますが、医師として一人前になるまでを北部で過ごすのだという意識は昔も今も変わりません。
学生時代はどのように過ごしていらっしゃいましたか?
学生時代はバドミントン部に所属していて、部活に打ち込んでいました。高校まではスポーツはしていなかったのですが、バドミントン部は何となく楽しそうだと思い入りました。一生懸命活動している人が多く、部活の中で縦の繋がりを学んだりコミュニケーションの基礎を教わったりすることができました。大所帯の部活動だったので今も顔見知りの先輩後輩が多く、コミュニケーションのきっかけになりやすいと感じています。練習にも合宿にも遊びにも、何事にも全力で打ち込むという雰囲気が自分に合っていました。
部活の傍ら、お寿司屋さんや居酒屋でアルバイトもしていました。月水土と部活の練習に行き、火木金でバイトのシフトに入るという日々でした。お寿司屋の女将さんにはとても良くしていただき今でも交流があります。たまたま昔看護師をされていた方で、実習が忙しいことなどを理解してくださったこともとてもありがたかったですね!
不思議なご縁があったということですね!
そうですね、縁としか言いようのない巡り合わせでした。
大学6回生 卒業旅行で同級生女子11人とフィンランドに行ったとき
過疎地域で働く勤務医として
今は消化器外科医として勤務されていますが、消化器外科を選ばれた理由はありますか?
初期研修の頃女子は内科系に進むという雰囲気があり、自分も内科に行くと何となく思っていました。その一方、学生時代の実習では外科系の手術が非常に興味深くて好きでした。研修で内科と外科を回った結果やはり外科系が良いなと思い、研修医2年目には脳外科、小児外科、消化器外科のいずれかの道に進みたいと考えるようになりました。その中でも消化器外科が最も面白く感じたのと、内科の研修中に虫垂炎の症例を経験したとき、消化器外科の先生が診てくださったのが大変頼りになり、自分の手で直接患者さんを治すことができるという点も魅力的で、最終的に消化器外科を選びました。今は多くのことを教えてくださった指導医の先生方の恩に報いることができるように励んでいます。その上で「玉井先生に診てもらって良かった」と言われることが何よりのやりがいになっています。
医師の少ない地域で働いていて、大変だと感じることはありますか?
医師の絶対数が少ないので、やはり個々人の負担が大きいなと感じることはあります。ですがどの先生とも顔見知りで相談しやすいというのは、むしろ医師が少ない地域ならではの利点だと思っています。また環境面においても、大学附属の北部医療センターで働いていることもあり、設備がなくて困るということは少ないです。
2022年 手術中の様子
勤務医というと開業医ほど地域と関わっているイメージがなかったのですが、地域との繋がりを感じる機会はありますか?
そうですね、やはり繋がりは大きいなと感じています。北部医療センターは丹後半島で唯一、緊急手術を行うことができる病院ですし、ここをかかりつけ病院としている患者さんも多くいます。都市部の病院で働いた経験が少ないので比較は難しいですが、都市部より患者さんとの距離が近いのではないかと感じます。
地域との繋がりは深いということですね!京都府北部の良いところを教えてください。
そうですね、通勤で海沿いの道を通るので眺めが良いです。朝は気持ち良く出勤できますし帰りも疲れが癒されます。コロナ禍でお酒を飲みに行く機会はありませんが、海の幸が美味しいのも素敵ですね。一方で私は中心部から離れたところに住んでいるので、体調を崩すと薬局へロキソニンを買いに行くのも大変です。しかし、看護師さんが帰りに買ってきて寄ってくれるなど、やはり人との繋がりを感じられるところが私にとって何より良いところです!
地域枠におけるキャリア形成
私自身も推薦入試で入学し将来は北部地域で働きたいと思っているのですが、意識されていること、しておいた方が良いことはありますか?
皆さんがどういうキャリアを目指したいかにもよると思いますが、将来についてしっかりと考えることが大切ではないでしょうか。同じ臨床であっても、各診療科のキャリアモデルとどこまで合致させるかが課題になってくると感じます。例えば消化器外科では基本的に、3, 4年目に関連病院で勤務し5年目は大学に戻り6年目から大学院に進学するのが一般的なのですが、地域枠制度では大学院に行く時期が少し遅れてしまうことはあると思います。
専門医という観点から、本学の地域枠制度では、取得に5年必要な皮膚科以外はどれでも専門医資格を取得できると聞きました。
制度上は可能ですが、心臓血管外科や呼吸器外科などで専門医取得に必要な症例を経験することが難しい場合もあると思います。 私は外科専門医を取得できるように初期研修時にも大学病院で症例を経験してカウントしていましたが、症例数が少なく3, 4年目などに調整しなければならなくなることもあります。そのような点でも、推薦制度で入学した場合はより自分のことや将来のことについてしっかり考えることが大切だと思います。もちろんそうでない人も、キャリアプランなどについて早めに考慮しておくのが一番ですし、そこは入学制度に関係なく考えるべきところですね。
2022年 同級生女子の結婚式で
男女という括りではなく
玉井先生は医師として働く上でジェンダーの違いを感じられたことはありますでしょうか?
ジェンダーは外科では語られることの多いテーマですが、私としては、男性と女性という括りではなく個性の差の範囲内で考えてほしいと思っていますし、自分自身もあまり気にしていません。
確かに女性医師としては、患者さんに対してより細やかな気遣いをしたり寄り添えたりすることが多いかなと思いますし、例えば傷跡の悩みなどに気付く視点を持っていることも多いと感じます。
逆に男性医師に比べて力で劣っている面はあると思います。手術で使う自動吻合器※の操作で、男性は簡単にできるけれど自分は力をかけないとできない時などに差を感じます。
私は妊娠出産を経験していないのでこれから先意見が変わることもあるかもしれません。しかし、そのような差は男女の差というより、ほとんどが個性ではないでしょうか。個々の特性を生かして得意なところを補い合うことが大切だと考えています。
※自動吻合機
血管や腸管、神経などを互いに連絡するように手術でつなぐための外科器具。
目標とメッセージ
これからの目標は何ですか?
まず外科専門医を取得し、消化器外科専門医、そして腹腔鏡の技術認定制度を取得したいと考えています。外科専門医は本来去年取得する予定だったのですが、COVID-19の影響で胃カメラや健診、手術の件数も減ってしまったためまだ取得できていません。
どの病院もですが、全科で協力してCOVID-19を診ようという流れになっています。外科や皮膚科の医師が発熱外来を担当することもあり、外科だからコロナが関係ないということはありません。小さい病院では尚更そうですね。医療従事者、特に看護師さんや医療事務さんの同居者、子どもがCOVID-19に感染して来られなくなり、手が足りなくなって予定手術ができないということも多いです。
コロナ禍で大変なことも多いですが、今は外科専門医、消化器外科専門医、技術認定医という3ステップを確実に取得していきたいと思っています。
2022年 国際外科学会で英語発表しているとき
最後に読者へのメッセージをお願いします。
主に女子学生さんに向けてのメッセージとなるのですが、女性だからといって何かを諦めるのはもったいないと考えています。女子だからしんどい、外科医になれないということはありません。女子だからという理由で自分のしたいことを妥協してほしくないのです。他の道を選んでも結局後悔することになるでしょうし、何々だからという理由でやりたいことを制限すべきではないと思います。たとえば仕事と家庭といった重視するもののバランスは、いざ選択するまで分からないことが多いです。自分のやりたいという気持ちでカバーできると思いますし、最初から仕事だけ家庭だけなどと自分の選択に制限をかけるのではなく、自分の目指す道を選択してほしいです。
女子学生としてとても心強いお言葉をいただきました。本日は貴重なお話、ありがとうございました!
取材・文=杉本亞梨朱(医3)